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2022-07-21

山とシンクロする構法

自然の素材を使って建築をつくる。
とりわけ生物素材である「木」は一つ一つに個体差があり、それ故に、その見極め方が大切になる。一方、鉄やコンクリートは、いわゆる「練り物」、何処をどう切っても基本的には同じ素性が表れる。そうした均質な素材は、計算に乗っかり易い。木も集成材、合板になると途端に扱い易くなる。それでも一つ一つ違う生物素材を使って建築をつくりたいと思うのはなぜだろか・・・料理に置き換えて考えてみると少し分かり易くなる。「素材に合わせて・・・」とか「素材を活かして・・・」という言葉がある種の魅力を放ちつつ自然な響きを帯びてくる。「魚を捌くように木を捌き建築をつくりたい。」と思う。お造り(刺身)のように「最小限の手数」というものに強く惹かれる。切って捏ねてを繰り返しては、環境の世紀において、なんだかトータルのエネルギー収支が合わないように思ってしまうのだ。もしかするとこれは極めて日本的な嗜好なのかもしれないが・・・

木という素材は山に植えられてから建築に使える大きさに成長するのに最低でも50年という時間が必要だ。私たちが今使っている木は、私たち世代が植えた木ではないということだ。同時に私たちが植えた木も私たち世代では収穫できない。ヒトを取り巻く世界に対する示唆に富む思考が始まりそうになる・・・年輪というのは木の履歴だ。過去50年の人と山との関係が年輪に刻まれている。戦後、高度経済成長、バブル、そして失われた25年・・・それらの時代の行為が年輪に履歴されている。その素材が、それ以前の価値観に照らしていいか悪いかはまた別の話、ただそれらを最大限活かそうという行為は、ここまで50年の人と山との関係をなぞる行為、それを活かした建築は、山とシンクロし、テロワール(地味深い)が香る(筈である)と、信じたい。構法とはその地味を引き出す的確な方法論でなければならない。

独立開業後まもなく「若杉活用軸組構法」という戦後造林の木に標準を合わせた構法を発表した。それ以来、ローコスト、ハイコスト、ハイブリッド、伝統的カタチ・・・関わる全ての建築にこの構法を用いてきた。基本となる考え方は当初より一切変わることなく、この構法は私たちとともに進化・発展を続けている。山が変われば建築も変わる。日本列島に生まれ、育ち、この地で建築をしようとするのだからどうしたって木を外してははじまらないと二十歳の頃ふと思った。そして今も思い続けている。今の山とシンクロする今の建築をつくりたいと願う。

写真は、5寸角(150ミリ角)のヒノキ、2段に重ねて2メートルの軒の出をつくる。

次回からテーマは「木製建具」に変わります。

設計・六車誠二

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