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2021-03-10

循環する素材

六車誠二建築設計事務所で7年半お世話になり、2019年に独立し内装設計及び左官見習い中の上杉と申します。今回はブログのお題『土と左官』について、考えることを綴らせていただきます。 

左官の職能に関しては、『土壁・左官の仕事と技術』(学芸出版社)によると、『自身で土を見て苆(すさ)、砂、または色合いに応じて複数の原土を混ぜ合わせて、水や火に強く作業もしやすくかつ住む人の健康にも良い壁を塗るのが左官職人の技である。』とあります。「左官の歴史や変遷」に関しては、専門の資料にお任せするとして、その職能を支える土の本質的な特徴に関して思うところを述べたいと思います。 

左官という職業は、「土に還る」という言葉があるように、基本的には「水と土」という生命の起源をも連想させる材料を用います。自ずと世界中どこでも作成可能ですし、その地域の気候風土による工程や仕上りの違いはありますが、根本原理は世界共通と言えるのではないでしょうか。

2015年に六車工務店+六車誠二建築設計事務所一同でインドにあるスタジオ・ムンバイの現場に赴く機会がありました。その際、帯同いただいた太田左官さん、現場のインド人左官集団を指導するスイス人左官さん、現地のインド人左官さんたちで、各々の技法で仕上げのスタディーを作成する様子を見学する機会がありました。そこには自然素材に対して頭と手を使い、自然の一部である人間が自然の素材を扱い、同化しながらも素材を通じて言語化以前の会話が成立していたように思います。そこには本質的な高揚した感動があり、どの仕上げにも人の手による魅力的な表情が見て取れました。

現状、『土と左官』を取巻く状況は、経済至上主義からもたらされた、『最新のものは、それ以前のものより優れている』という強力なバイアスにより、大衆の元を離れ、昔話のように語られることが一般的になってきました。ただ、高度経済成長の頃のように時間や生産効率最優先である必要性が疑問視されてきていることも事実です。そこには、安易な懐古主義ではない今の時代にあった『土と左官』の姿を模索するチャンスがあるように思います。左官見習いを始めさせていただいてまだ数ヶ月ですが、そこには共通するカタと、各々が素材と向き合って考えて行き着いた(もしくは模索し続けている)カタチがあるように思います。それぞれの建物の建つ敷地条件やお施主様のご要望に、パキッと応える工業製品とは違い、やんわりと「自然な形」で応えられ、仕上がったあともお互いに自然の一部として会話が成立するのは、『土と左官』の大きな特徴ではないでしょうか。 

追記:2枚目の写真は、先日施工した土壁の骨となる竹木舞です。以前はこのような作業を、左官の見習いがよくやっていたそうです。下地から自然素材であることの喜びを噛み締めながら施工しました。

上杉康介アトリエ 上杉

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