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2021-08-20

自然素材と精度

 じめじめとした日が続いています。

 現場は、建前が終わり屋根ができ、竹小舞も入って少しずつ家らしくなってきました。

 若杉活用軸組構法の大きな特徴の一つである自然乾燥の技術は、六車工務店が長い時間をかけて先人に学び改良してきたものです。材の乾燥状態はできあがる建物の精度に大きく影響します。

 六車工務店では精度をとても大事にしています。あまりの正確さに、私ははじめ、そこまでの労力をかける意味はあるのだろうかと思っていました。

 しかし、正確に設計し作ることは、ただ正確な物が出来上がるということだけを意味するのではなく、自然というものに対してどう向き合うかという哲学なのだと分かってきました。

 無垢の木は、動きます。割れたり反ったりします。それはある程度はどうにもできないですが、自然素材だからといって割れや反りを放置しては、良い建物はできません。自然であるだけで満足してしまうと、いつの間にか住みにくく快適でない家になってしまい、後々の人にも愛され使い続けてもらえる家ではなくなってしまいます。

 自然素材だからこそ、精度を求めるのです

 自然はめぐみを降らすと同時に災いをももたらします。

 アメリカ合衆国のチェスプレーヤーで武術家でもあるジョッシュ・ウェイツキンはその著書の中でこのように述べています。

「僕と格闘技の関係は非暴力に根差したものだ。 …中略… 戦いたくないのに格闘技のリングに立つなんて、矛盾していると思われるかもしれない。このことに関しては、僕は個人的に「心を開墾し続ける作業」だととらえている。お花畑で非暴力について語るのは簡単だ。本当の意味で心のチャレンジとなるのは、敵意や攻撃や痛みと向き合ったときに、その根本的な視点を保ち続けられるかどうかだ。」

 自分や相手の中に生まれた激情をどう活かし創造的な戦略へと昇華させるか。想定できるシナリオに対してどう綿密な作戦を立てるか。試合中の想定外の出来事をどう閃きを得る契機に転換するか。

 彼は、コントロールできないものはすべて創造の源泉と捉えています。

 自然もある意味暴力のような存在です。木の個性を無視すると暴れて美しさも強さも損ねてしまうけれど、手をかけてうまく組めば、木の曲がりやねじれのエネルギーを有効に活かすこともできるのです。災害は確かに脅威ですが、普段の生活の尊さを認識する機会になったり、イノベーションのきっかけになったりもします。

 割れや反りがない人工の素材を使うのは、簡単です。

 しかし私たちはできるだけ自然素材を使います。それは自然素材の家が心地よいからと同時に、天候や木の状態に左右されながら建物を作ったりそこで暮らしたりする行為そのものに、自然との調和を見出しているからです

 割れないものだけを使うのでもなく、ただ割れを仕方のないものと扱うのでもない。コントロールできなければただあばれ、荒れとなるものを、綿密な計画のもとコントロールする。それでもどうしようもないことに対しては、創造的に対処する準備をしておく。

 緊張感の中、外なる自然、内なる自然との関係を紡ぎ続けているのです。

 私たちが大切にしている「自然乾燥」や「精度」というものは、きっとそういうことすべてを含んだ考え方なのだと思います。

設計・森崎

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